その視界を彩るもの




学校にスマホを持って行くこともやめた。

段々と私物の数が減っていくのは当のあたし自身が痛いくらいに感じていたし、何より決定的な出来事があったから。



『センセー、篠崎さんが授業中にスマホいじってるー』



防衛策として常に肌身離さず持ち歩くようにしていたら有りもしないことをチクられて。

大体そういうアンタたちがあたしの物ばっかり捨てるからじゃん。

そうは思ったけれど、反論したり反抗すること自体が億劫で諦めた。


気付けば最初からペッタンコだった鞄に入っているものなんて、もう本当に無くなった。





「イジメ」じゃないから構わない。

強がってる訳じゃない。

だって、心を「無」にすれば痛くも痒くもないのは本当だから。


大体そんなツマンナイことする奴ら相手にするくらいなら、放課後に迎えに来てくれるイサゾーと喋るために体力を温存しておいたほうがずっと良い。




『アンタ最近ほんとマシンガントークじゃない?』




クスクス笑みをこぼしながらイサゾーにそんなことを言われるのにももう慣れた。

だって仕方ないじゃん。

あたしが喋る相手は、今のところ家族以外だと本当にイサゾーだけなんだから。


毎日毎日、放課後にイサゾーと会えるのが楽しみで堪らない。

あたしはもしかすれば、そのためだけに生きているのかもしれない。


イサゾーが好き。

イサゾーが大切。

イサゾーと居る時間が何よりも大事。



アイツと一緒に居るときは本当に楽しくて仕方がないから、あたしも心から笑えているんだと思う。



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