その視界を彩るもの




「ま、周りなんてどうだって良いじゃないですか!」

「梢ちゃん」


あたしの懺悔にも似た言葉をじっと聞いてくれていた梢ちゃんは、ふと声を張り上げてそう口にした。

慌ててそんな彼女を宥めようと試みるも、中々上手くいかなくて。

だって、それに。あたしまだ「あのこと」を梢ちゃんに言えていないのに。




「私は勇兄の彼女さんが初さんで本当に良かったって思ってるんです!」

「待っ、」

「大体アクションを起こしたのは勇兄じゃないですか!初さんは何も悪くなんてないです、そんなに思い詰める必要なんて無いんです」

「………」

「今回のストライキ染みた一ファンの行動だって、初さんがそう悩んでいることを彼女たちが知れば余計に付け上がらせるだけなんですから!勇兄に彼女が居るからって離れてアンチ側にまわるような人たちは、残念ですけど"それまで"だったってことなんだと……私は、思います」



―――…"それまで"、かあ。

梢ちゃんの力説してくれた言葉を咀嚼しながら、ふと思い出す。

結局、あたしのことを「それ以上」だと思ってくれる友人は居なかったなって。







でも、それでも。



「梢ちゃん……ありがとう」



こんなにも充分過ぎるほどの言葉を貰えたんだから、あたしはもう平気だ。





穏やかな空気があたしたち二人を包んでいく。

運ばれてきたアイスティーをそのまま放置してしまっていたことに今更ながら気付き、慌ててガムシロを中に入れてマドラーで掻きまわす。

そしてそれを一口だけ飲みこんで喉を潤したら、漸く決心がついた気がした。



「嘘」を「告白」する、決意が。



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