その視界を彩るもの






「梢、忘れ物は?」

「大丈夫」



玄関で私を見下ろす母親を見上げ、とびっきりの笑顔でそう告げる。

そんな此方の様子を認めて小さく眉尻を落ち着かせたお母さん。





地元に戻り、学校にまた通い始めてから既に半年が経った。

あのとき世間から離れたいと渇望した私を優しく窘めてくれたアケタじいさんはもう居ない。


決意してあの田舎町から出立してから数週間で、爺さんは息を引き取った。




アケタじいさんの通夜に参列したときに感じたこと。

生前に爺さんが私だけに話してくれたこと。

あのときに限って私に真面目な話をし、地元に戻るように嗾けたアケタじいさん。





他ならぬアケタじいさんの言葉だから、他でもない私自身が大事にしようと心に決めた。








― 柳梢《やなぎこずえ》より、明田充《あけたみつる》に捧ぐ ―






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