無愛想な同期の甘やかな恋情
いちいちときめく自分を誤魔化したくて、私はラボを気にして、彼の背の向こうに視線を向けた。


「いや、だから。もう、菌からは離れて」


穂高君が、困ったように目尻を下げて苦笑した。
そんな彼を、私は上目遣いで窺う。


「この後は、何時まででも付き合える。ずっと二人きりでいられる。だから」


キリッとした表情で、もう一度誘ってくれる彼に、私の胸がじんわりと温かくなった。
鼓動が、とくんと優しい反応を示す。


「……はい」


あんなに子供っぽく我儘な態度を見せてしまった後、素直にOKするのは、ちょっと気恥ずかしい。
でも、穂高君からちゃんと誘い直してくれたのが嬉しくて、私ははにかんだ笑みを返した。
彼も、ホッとしたように表情を和らげてくれる。


「ありがとう。じゃ、行こっか」


そう言って、スラックスに手をゴシゴシと擦ってから、私に向かって差し出してくれた。
そっと見上げると、すごく照れ臭そうに見えるから、私もつられてむず痒い気分になってしまい……。


「……お腹空いた」


なんとなくそっぽを向きながら、彼の右手に手を預け、少し遅い時間のランチをリクエストした。


「OK」


穂高君は、躊躇うことなく指を絡ませ、きゅっと握ってくれた。
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