無愛想な同期の甘やかな恋情
「っ! ほ、穂高君」

「今日は遅いな。覗き込むとか不審なことしてないで、さっさと入れば?」


私の方は心臓をバクバクいわせてるのに、穂高君は相変わらず冷静だ。
淡々とした口調で素っ気なく言って、眉根を寄せて私を見下ろす。


「あ、うん。……えっと、穂高君も今日は遅いね」


変な汗が背中を伝うのを感じながら言葉をかけ、彼が白衣姿なのに意識が向いた。
私の視線が下がるのに気付いたのか、穂高君も「ああ」と自分の白衣を見下ろす。


「実験途中だから。ギリギリまでやってて、脱いでくるの忘れた」

「はは、そっか」


わざわざギリギリに来た私の作戦は、完全に裏目に出たようだ。
会話を交わす時間ができるのを避けたつもりが、穂高君も遅れてきたせいで、真っ先に顔を合わせることになってしまうなんて。
私は、彼の目線が再び上がるのを見て、目が合う前にサッと逸らした。


「じゃ、じゃあ、中入ろうか」


ぎこちない笑顔で誤魔化し、会話をどうにか切り上げようとする。
その時、バタバタと足音が近付いてきた。
どうやら、私たちの他にもう一人遅刻者がいたようで……。


「わー、遅くなりましたー!」


私も穂高君も、ほとんど条件反射でそちらに顔を向ける。
販売部の新井さんだ。
会議室の外で向かい合っている私たちの前まで来て、彼女は足を止めた。
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