無愛想な同期の甘やかな恋情
そのまま、今来たばかりの廊下を、走って戻っていってしまう。


「あ、穂高く……!」


なにを言おうとしたのかわからないけど、私は彼の名を無意識に口にしていた。
ハッとして口を噤んだものの、両側から間中さんと糸山さんに挟み込まれ、きゅうっと身を縮める。


「……冴島さん。たった一晩で、胃袋ゲット以外の方法で、歩武を落とした?」


穂高君をからかったのと同じように、私の肩に腕を回して身を屈めてくる間中さんに、私の胸がドッキンと跳ね上がる。


「えっ!? あ、あの、間中さん、いったいなにを……!?」

「なんか、ちょっと前までとは、違う空気漂ってました。今の穂高さんと美紅さん」


糸山さんも、鋭く私を覗き込んでくる。
私は二人から両脇を封じ込められ、あわあわと目を泳がせた、けれど……。


「しっ、仕事!」


ひっくり返った声を張り上げた。
古い造りのラボの廊下に、キンとするほど響く。
間中さんたちが軽く怯んだ隙を見逃さない。


「私も早くオフィスに行かなきゃ! じゃ、失礼しますっ」


不審なほど裏返った声で言い捨て、私は正面玄関に向かってバタバタと走った。
ポカンとした様子でその場に立ち尽くし、私を見送っている間中さんと糸山さんを、一度も振り返ることができないまま。
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