一目惚れの彼女は人の妻
「嫌だね。俺は今、こういう可愛い系の魚には興味ないんだ」

 そう。俺はこのところ、肉食のどう猛な魚にハマっている。中でもピラニア。大枚を叩いて大型水槽を買い、その中で憧れだったブラックピラニアを飼っているのだ。

「もしかして、俊君。あのピラ男なら、こんなお魚は一口で食べちゃうとか、思ってない?」

「はあ? そんな事、思ってねえよ」

 実は少し思ってたけども。

「それより、恵美。ベタベタすんのはやめてくれないかな」

「なんで?」

「なんでって、兄妹でこういうの、おかしいだろ?」

 そう。連れの女は恵美という名で、2つ下の血を分けた正真正銘の妹だ。

「誰が決めたの?」

「誰がって……」

 実際のところ、誰なんだろうな。と思ってしまったが、

「おかしいものは、おかしいの! それにおまえ、"俊君"とか言うのはよせ。普通に"お兄ちゃん"でいいだろ?」

 恵美は、家の中では俺の事を普通に"お兄ちゃん"と呼ぶくせに、家の外では"俊君"、あるいは"俊輔"と呼ぶんだ。俺は毎回文句を言うのだが、恵美はちっとも言う事を聞かなかった。
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