一目惚れの彼女は人の妻
 俊君は、「はあー」なんてため息を吐き、ラテを口に含んだのだけど、

「アチッ」

 口を火傷しちゃったみたい。

「大丈夫? "熱いよ"って、言えば良かったね?」

「うん。あ、いや、これってテイクアウトしていいんですか?」

「いいと思うけど?」

「じゃあ……」

 と俊君は言い、ラテのカップを持って立ち上がった。そして、

「では、失礼します」

 とか言って、帰ろうとした。

「待って? どうしても聞きたい事があるの」

 私は、萎えそうになる気持ちを頑張って奮い立たせた。あの事を、何としても確認したいから。

 俊君は、"しょうがないなあ"と言わんばかりの態度で椅子に座り直した。

「2ヶ月ぐらい前だけど、私、見ちゃったんだ」

「何をですか?」

「駅のホームで、俊君が、メイド服を着た女の子に、腕を掴まれてるところを」

 すると俊君は、初めはピンと来なかったみたいだけど、すぐに思い出したのか、目を大きく見開いた。

「宏美さん、あれを見てたんですか?」

 あ。やっと"宏美さん"って呼んでくれた。

「うん、見てた」

「そうかあ、見られてたんだ。恥ずかしいなあ。あれは本当にやばかったんですよ。危うく痴漢にされそうでした」
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