シュガーレス
第5話 思わぬ誘い
 彼の名は仁科(にしな)さん。
 彼、とはお気に入りの喫茶店で、相席した際に私を目撃したのがこれで三度目だと突如話しかけてきた彼のことだ。そしてその日のうちに病院で再び鉢合わせることになったまさにあの彼のことだ。
 彼もあの喫茶店の常連らしく、よく仕事の休憩中に利用するらしい。顔を合わせれば時々会話をするようになった。ただ、わざわざ一緒の席に掛けて会話をするほど打ち解けてはいない。すれ違えば挨拶と、簡単な会話を一言二言交わす程度。だから今のところ彼の名前以外のことは分からない。
 初対面の印象はあまりよくなかった彼。でもそれはおそらくお互いに言えることだ。互いに風邪を引いていて顔色は悪く、体調も悪かったため態度も悪かった。話してみれば案外普通の人だった。向こうから見て私の印象がどうだかは分からないけど。
 それでもやっぱり、甘い外見とは反対に彼の醸し出す雰囲気はどこか陰があってめったに笑顔を見せることはなく、若い見た目に比べて話し方も動作も落ち着いている。彼独特のテンポというか。マイペースな口調と動作。せっかちな私は普段ならイライラしていてもおかしくないのに、心地よさを感じるテンポだった。

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