シュガーレス
 午後、事務所に戻ると内線が鳴った。相手は堤さん。「手伝って欲しいことがあるから今すぐに資材室に来て」。
 私たちが資材室と呼ぶ場所はここ数年間の部署内で扱った資料や製品のサンプルが大量に保管されている部屋で、事務所を出てすぐ横にある小部屋だ。
 すぐに向かうと、狭い室内に置かれた小さなテーブルの上に大量の書類が積まれていた。
「これ全部参考資料なんだ。広げたいから第二会議室を借りた。運ぶの手伝ってくれる?」
「……はい」
 運ぶくらいなら、私でなくとも他の人でいいじゃない。後輩の男の子とか、いつも暇そうにしてる……
「なに? その不満そうな顔」
「いや? 私じゃなくても自らすすんで手伝いたいって言いそうな暇な女子社員が他にいるんじゃないかな~って思いまして」
 大人げないイヤミ。八つ当たりしているみたいだ。自分に嫌気を感じながら、狭い通路を通り堤さんとすれ違って積まれた資料を手にした。
 するとすぐに自分の手に堤さんの手が重なり腕を引かれ、所狭しとファイリングされた資料が並ぶ棚に背中を押しつけられた。
 こんなとこで、急に何?
 驚きに顔を上げると、身を寄せた堤さんが耳元で囁く。
「最近、よく一緒にいる男誰?」
「……は?」
「彼が……キョウヘイ君?」
 キョウヘイ?
 誰よ……それ。
 そう口に出して訴えようとした瞬間、唇を塞がれた。訳が分からず抵抗しようとしても、繰り返される呼吸さえも奪うような深いキスに、抵抗しようとする身体の力は抜け、声を出すことも出来なかった。
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