人魚姫の涙
「あの時ね、私凄く嬉しかったの」

「え?」


自分の失態を恥じていた時、紗羅は思いもしなかった言葉を囁いた。

目を丸くした俺を見て、紗羅は深く微笑む。


「私の名前、『紗羅』ってね。パパがつけてくれたんだ」

「――」

「紗羅って名前はね、ローマ神話に出てくるネプチューンの妻、サラキアから取ったの」

「ネプチューンって、ギリシャ神話に出てくるポセイドン?」

「そう」


ギリシャ神話に出てくる、オリュンポス十二神の中の1柱、ポセイドン。

海を司る神。

海の王。


「海を司る神様、ネプチューンの妻のサラキア。だから彼女は海の女神でもあるの」

「女神...…」

「人魚姫は女神じゃないけど、海の中に住むお姫様でしょ? だから、なんだか嬉しくて。私の名前は海を意味しているから」


そう言って、嬉しそうに微笑んだ紗羅。


美しき人魚姫。

真っ青な瞳を持った、海の女神――。


「紗羅にピッタリの名前だな」

「うん!」


やっぱり、紗羅は人魚姫だ。
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