【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
ミナトは息つく間もなく襲い掛かって来る刃を次々にいなし、強烈な斬撃で相手の手中から剣を弾き飛ばしていく。
時には丸腰になった相手の襟元を掴むと、他の者を巻き込みながら背負い投げをかましていた。
強烈に地面に叩きつけられた者は、二度と起き上がっては来なかった。
ナツナが以前言っていた事を、今になって思い出す。
ミナトはもの凄く強いのだ、と。
(強いなんてもんじゃない)
恐怖すら感じてしまう程の圧倒的な力。
それこそ正に、我を忘れた鬼のように。
ぞくり、とうなじの皮膚が粟だった。
「っ、うらああああ!」
雄叫びを上げながら男達を打ち捨てていくミナトが、怖かった。
(やめて……)
人間離れした強さを目の当たりにしているからでは無い。
無常なまでに人を斬り付けていくからでは無い。
(もう、やめて)
激しく動くミナトの背が、血に濡れていく。
剣を振るえば振るう程に清廉な隙間が無くなって、そして彼の足元が地獄のように赤く染まっていく。
どれだけの深手を負っているか、手に取るように分かってしまうのだ。
極限状態に違いないミナトがいつ死んでしまうのか分からない。
そんな恐怖に侵されたから、カヤの唇は震えた。
「全員離れろ!」
丁度、七人目が倒された時、首領の男の声が辺りに響き渡った。
それを合図に、ミナトに攻撃をかけていた男達が一斉に飛びのく。
――――その瞬間、割れた人垣の間からミナト目がけて矢が放たれた。
「ミナ……」
彼の名を呼び終える暇すら無かった。
「ぐっ……」
崩れるようにして、ミナトが地面に膝を付く。
――――矢は、彼の左太ももを貫通していた。
「今だ!崖に落としちまえ!」
絶好の機会を見逃さなかった男達が一斉にミナトに飛びかかる。
咄嗟に片手で斬撃を受け止めたミナトだったが、次の瞬間には更に二人の男がミナトに渾身の蹴りを入れた。
踏ん張れるような体勢に無かったミナトが、真後ろの崖へ吹っ飛ぶ。
(――――う、そ)
呼吸が、止まった。
その身体が空中へと放り出され、呆気なく落下していく―――――直前で、ミナトが咄嗟に左手を伸ばした。
ガラガラッ……と衝撃で小石が崖下へ転がっていき、そして一瞬後には静寂。
「あ……」
カヤは、へなへなとその場に座り込んだ。
正に危機一髪。
ミナトは崖を掴み、宙吊りにならながもどうにか落下を免れていた。
「くっ……」
その顔が苦痛に歪む。
全体重を左手一本で支えているせいだろう。
傷を負っている左脇から、どくどくと血が溢れ出てくるのが遠目でも分かった。
「くそっ、しぶてえ野郎だな……おい、指斬っちまえ」
「うす」
無慈悲な声の後、剣を構えた一人の男がミナトへと歩みを進める。
背筋が凍り付いた。
確実にミナトを崖下へ落とすつもりなのだと分かった。
「やめてっ……!」
一歩も動くなと言われた事すら忘れて、カヤは宙ぶらりんになっているミナトの目の前に身体を投げ出した。
「っお、い……やめ……ろ……」
雨音に掻き消されてしまいそうな声が、背後から聞こえて来た。
その声が今にも途切れてしまいそうなほどか弱くて、カヤの心臓は鷲掴みにされたように痛んだ。
「お願い、もうこれ以上はやめて……」
座り込みながら必死に男に懇願する。
後ろ手で背後をまさぐり、崖を掴んでいるミナトの手を探り当てると、ぎゅっと握った。
(なんて冷たい)
雨に濡れただけでは成り得ないその体温に、ぞっとした。
時には丸腰になった相手の襟元を掴むと、他の者を巻き込みながら背負い投げをかましていた。
強烈に地面に叩きつけられた者は、二度と起き上がっては来なかった。
ナツナが以前言っていた事を、今になって思い出す。
ミナトはもの凄く強いのだ、と。
(強いなんてもんじゃない)
恐怖すら感じてしまう程の圧倒的な力。
それこそ正に、我を忘れた鬼のように。
ぞくり、とうなじの皮膚が粟だった。
「っ、うらああああ!」
雄叫びを上げながら男達を打ち捨てていくミナトが、怖かった。
(やめて……)
人間離れした強さを目の当たりにしているからでは無い。
無常なまでに人を斬り付けていくからでは無い。
(もう、やめて)
激しく動くミナトの背が、血に濡れていく。
剣を振るえば振るう程に清廉な隙間が無くなって、そして彼の足元が地獄のように赤く染まっていく。
どれだけの深手を負っているか、手に取るように分かってしまうのだ。
極限状態に違いないミナトがいつ死んでしまうのか分からない。
そんな恐怖に侵されたから、カヤの唇は震えた。
「全員離れろ!」
丁度、七人目が倒された時、首領の男の声が辺りに響き渡った。
それを合図に、ミナトに攻撃をかけていた男達が一斉に飛びのく。
――――その瞬間、割れた人垣の間からミナト目がけて矢が放たれた。
「ミナ……」
彼の名を呼び終える暇すら無かった。
「ぐっ……」
崩れるようにして、ミナトが地面に膝を付く。
――――矢は、彼の左太ももを貫通していた。
「今だ!崖に落としちまえ!」
絶好の機会を見逃さなかった男達が一斉にミナトに飛びかかる。
咄嗟に片手で斬撃を受け止めたミナトだったが、次の瞬間には更に二人の男がミナトに渾身の蹴りを入れた。
踏ん張れるような体勢に無かったミナトが、真後ろの崖へ吹っ飛ぶ。
(――――う、そ)
呼吸が、止まった。
その身体が空中へと放り出され、呆気なく落下していく―――――直前で、ミナトが咄嗟に左手を伸ばした。
ガラガラッ……と衝撃で小石が崖下へ転がっていき、そして一瞬後には静寂。
「あ……」
カヤは、へなへなとその場に座り込んだ。
正に危機一髪。
ミナトは崖を掴み、宙吊りにならながもどうにか落下を免れていた。
「くっ……」
その顔が苦痛に歪む。
全体重を左手一本で支えているせいだろう。
傷を負っている左脇から、どくどくと血が溢れ出てくるのが遠目でも分かった。
「くそっ、しぶてえ野郎だな……おい、指斬っちまえ」
「うす」
無慈悲な声の後、剣を構えた一人の男がミナトへと歩みを進める。
背筋が凍り付いた。
確実にミナトを崖下へ落とすつもりなのだと分かった。
「やめてっ……!」
一歩も動くなと言われた事すら忘れて、カヤは宙ぶらりんになっているミナトの目の前に身体を投げ出した。
「っお、い……やめ……ろ……」
雨音に掻き消されてしまいそうな声が、背後から聞こえて来た。
その声が今にも途切れてしまいそうなほどか弱くて、カヤの心臓は鷲掴みにされたように痛んだ。
「お願い、もうこれ以上はやめて……」
座り込みながら必死に男に懇願する。
後ろ手で背後をまさぐり、崖を掴んでいるミナトの手を探り当てると、ぎゅっと握った。
(なんて冷たい)
雨に濡れただけでは成り得ないその体温に、ぞっとした。