【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「っ、!」

ガバッ!と勢い良く起き上がったカヤは、一瞬で血の気が失せていくのを感じた。


―――――私の蒼月は、一体どこに?



「そ、蒼月はっ……皆は!?無事なの!?」

カヤは、隣の弥依彦に掴み掛かると、激しく肩を揺さぶった。

しかし弥依彦は暗い顔のまま、首を横に振る。

「……分からない」

「そんな……」

カヤは弥依彦から手を放すと、力無く項垂れた。


(蒼月……)

何かの奇跡で近くに蒼月らしき人影は無いか、と無意識に視線を彷徨わせる。


暗くて良く見えないが、カヤ達が森の中に居るのは確かだ。

目の前には、恐らくカヤ達が転がり落ちてきたのであろう斜面がそびえ立っていた。

良く生きていたものだ、と背筋が寒くなる程度には、かなり急な斜面だ。
ほぼ崖と言っても良い。



「……私、どれくらい気を失ってた?」

果たして此処を登れるだろうか、と愕然としながら弥依彦に尋ねる。

「僕が眼を覚ましてから、丁度一日くらいは経った」

「一日!?」

思わぬ回答に仰天する。

あれから数刻ほどしか経っていないと思っていたのに、どうやら日付が丸々一日進んでいたらしい。


心臓がドキドキと騒ぎ始め、酷い吐き気がした。

あの後、ナツナ達はどうなったのだろう?
上手く逃げ切れたのだろうか?
あの男達に捕まってはいないだろうか?

否―――仮に未だ捕まっていないとしても、今もこの真っ暗な森を逃げ続けているのだろうか?



「っ蒼月……」

あの子は、不安がっていないだろうか。
泣いていないだろうか。

嗚呼、どうして母親であるはずの自分が、こんな時にあの子と離れているのか!



胸が張り裂けそうになって、己を掻き抱いた時だった。


「―――――……居たか……?」

「―――――……いや、見当たらない……」


どこか遠くから聞こえてきた声に、二人は弾かれるようにして音のする方に顔を向ける。

目の前にそびえ立つ斜面を登り切った所に、複数の松明の明かりが見えた。

斜面の上に、誰かが居る。


「隠れろっ……!」

弥依彦に頭を抑えつけられ、二人は地面に臥して身を隠した。

薄っすらと聞こえてきた会話から察するに、誰かを捜している様子だ。
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