【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「別に良いよ。それにしてもお前、良く泣かなかったな」

「いいこいいこしてー」

「はいはい、分かったよ……はい終わり」

「や、もっと!」

「はは。お前、頭撫でられるの好きだよなあ」

そう言って蒼月の頭をわしゃわしゃと撫でる弥依彦を見て、カヤも翠も眼を丸くした。

蒼月と弥依彦が、こんなにも親しい様子で話している所なんて、見たことが無い。

それどころか、蒼月が一方的に弥依彦に「遊んで」とせがんでいたような記憶しか―――――

「あ」

不自然に仲の良い二人の様子を見て、カヤは最近の謎が解けたような気がした。

「……ねえ、弥依彦。もしかして私の知らないところで、蒼月と遊んでくれてた?」

「は?なんでだよ?」

「だって、蒼月がこんなに懐いてるんだもん……あ!そういえば、森でこの子の玩具見つけた時、真っ先に蒼月の物だって気が付いてくれたよね!?」

カヤの指摘は、ズバリ的を射ていたようだった。

弥依彦は気まずそうにカヤから視線を逸らすと、蚊の鳴くような声で言った。

「別に……たまーにだ。たまーに」

その『たまーに』には、きっと相当数が含まれているに違いない。

そうか。恐らく弥依彦は、人質となってしまった蒼月のためにも、今日のような行動をしてくれたのだろう。

とても仲の良さそうな二人を見て、カヤはそう思った。


「弥依彦。本当にありがとう。今日の弥依彦、すごく立派だった」

再びお礼を口にすると、弥依彦がチラリとカヤを見やり、すぐに目を逸らした。

「……お前が言ったんだぞ」

尖った唇が、ぼそりと言葉を吐く。

「え?なに?」

「お前が言ったんだぞ。あの時、僕に"正しく生きろ"って。だから……」


『――――正しく生きて下さい』

それは、カヤがミナト達と砦を脱走する時、ハヤセミの謀反によって地下牢に閉じ込められていた弥依彦に向かって言った言葉だった。

弥依彦には散々な目に合わされたが、それでも彼に罪は無い、と、カヤは弥依彦を牢から出した。

列記とした王族の血を引いている弥依彦に、少しでも彼のためになる道を歩んで貰えれば、と願って言った事だ。

弥依彦は、きちんと覚えていてくれたのだ。

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