【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
絶えうるなら、琥珀の隙間
――――――それから二年後。
「よ、琥珀」
「わあ!ミナト!」
ヒョコッと入口から顔を出したミナトに、カヤは笑顔を浮かべた。
「あら、来たのね」
「お久しぶりなのですー」
いそいそとカヤの身支度を整えてくれているユタとナツナが、手を動かしながら答えた。
「ミナトー!」
暇を持て余してカヤに纏わりついていた蒼月が、一瞬でミナトの所へ駆けて行く。
「おお、蒼月。元気か?」
「うん!元気!」
勢いよく足に抱き着いてきた蒼月を持ち上げ、ミナトが部屋の中に入ってきた。
「今日はわざわざ来てくれてありがとう。道中何も無かった?」
丁度髪を結って貰っていたカヤは、あまり動かない首でミナトを振り返りながら言った。
「ああ、順調だったよ。こちらこそ招いて貰ってありがとな」
そう言ったミナトは、純白の衣装に包まれたカヤをじっと見ると、微笑んだ。
「いよいよだな。婚礼の儀」
「うん。緊張して吐きそうだよ」
カヤは力無く笑った。
今日は、翠が正式に男性の神官として就任する儀式の日だ。
そして同時に、翠とカヤの婚礼の儀が執り行われる日でもある。
水害により眼が回るほどの忙しさで各地を駆けずり回っていた翠だが、最近ようやくそれも落ち着いてきた。
二年越しになってしまったが正式にカヤを妻にしたい、と翠が言ってくれたのは今年の春頃だった。
勿論カヤはすぐに頷き、そしてその話は瞬く間に国中に広まった。
当初は気楽に考えていたカヤだったが、神官の婚礼と言うものは思っていたよりも仰々しいものらしく、数えきれないほどの祈りの儀や挨拶周りは勿論、夫婦二人が馬に乗り民の前に姿を見せると言う通例もあるそうだ。
しかも今日はカヤ達を一目見ようと、祭事の時以上の民が村を訪れているとの話である。
カヤはそれが一番憂鬱だった。
(とんでも無い事やらかしたらどうしよう……)
いや、そりゃあ心の底から嬉しいのだ。
ただ今日は決して失敗があってはならない。
お淑やかにして、ずっと笑顔を顔に貼り付けていなければいけないのだ。
果たして、人前に出るのが苦手な自分にそれが出来るだろうか。
そんな重圧で、数日前からカヤの胃はキリキリと痛かった。
「そ、そういえば、ハヤセミと弥依彦は?」
カヤは緊張を紛らわすべく、ミナトに尋ねた。
「ああ。外で翠様と小難しい話をしてる」
「相変わらずだねえ」
二年前の氾濫の後、ハヤセミは自ら弥依彦に王位を明け渡した。
弥依彦は、当初それを断ったようだったが、どうやら氾濫の日に聖堂で見せた大演説は、民の心に大きな影響を与えたらしい。