危ナイ隣人
「今日はカレー作ったの。毒リンゴ入りだけど、食べる?」


「まじかよ。お手柔らかに頼むわ」


「それはどうかな。私もご飯まだだからわかりません」


「お前も? 随分遅いな……って、勉強してたのか?」



リビングに入って、机の上に置いたままだった教科書とノートが目についたらしい。

私はキッチンに向かいながら、「そうだよ」と背中で返す。もうカレーは喉を通るだろう。



「さっきまで友達と電話してたから、それまでね。時間あったから」


「ふーん、マジメだな……──」



私はキッチンでカレーを温めて、余ったらカレー同様に明日に回せばいいやと2つ作っておいたサラダを冷蔵庫から取り出して。

少し久しぶりな2人の食卓を彩ることだけを考えていた。


だから。


ナオくんがこの時、何を見つけたのか、何に気付いたのか。

どんな表情をして、何を考えていたのかなんて、知る由もなかったんだ。



──思えばこれが、私達の本当のはじまりだったのかもしれない。





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