危ナイ隣人
そんなことない。

朝、パン焼いてくれたりお茶入れてくれたりしたじゃん。


まぁ……掃除はしないし食べた食器はそのままだったりするし、着てた服も脱ぎ散らかしたりしてたけど……。


けっこう、思ってたより、心地よかったよ。



「ナオくん、寂しくて泣いちゃったりするんじゃないの」


「ないない。地球が1分に300回まわってもない」


「それ、どんな例え?」



間髪入れずに否定されて、私は唇を尖らせる。

そんなに盛大に否定しなくてもいいじゃんねぇ。


これで居候生活も終わりかぁ。

最後だってのに、なんだかアッサリしてるなー。

ため息と一緒にリビングを出ようとした時、「でも」という声が飛んできた。



「茜の作る飯、結構美味かったから……それがなくなるのは、ちょっと寂しいかもな」



びっくりして振り向くけど、ナオくんはテレビを見たままだ。

液晶の中では、馬が一斉に走っている。迫力がすごい。


馬がどかどか走る音と重なって、胸が高鳴っている。

得意の料理を褒められたことが、自分が思っているよりもずっと嬉しかったらしい。


だったら、だったらさ。



「ごはん。また、一緒に食べようよ。ナオくんが食べたい時に声かけてくれたらいいからさ」



連絡先は知ってるし、家なんか隣だし。

この生活が終わったって、何もただの隣人に戻る必要はないはずだ。
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