青いチェリーは熟れることを知らない①

長谷川とチェリーの断末魔

「……待ってよ! さ、さっきのどういう意味?」

 中途半端に上着を羽織りながら店の外へ飛び出してきたちえりに合わせてピタリと足を止めた鳥頭が振り返る。

「見ててわかんねぇの?」

「わかんないから聞いてるんでしょ……」

 ムッと来るような物言いにちえりは片眉をピクリと動かした。

「長谷川が場の空気を取り持ってるってことだよ」

「……あんたって相変わらず陰では呼び捨てなのね。……って、そうなんだ。知らなかった」

 彼女らと同じチームに所属する鳥頭ならば、すでにその空気感というものを把握していてもおかしくはなく、同じフロアに居ながらも蚊帳の外感が拭えないちえりは、ますます彼女らの存在を遠くに感じてしまう。
 そして楽しそうに見えた今回の飲み会だが、自分の知らぬ社会の裏側を見たような気がして少し怖くなってしまった。

(瑞貴センパイが知らないわけない……飲み会のお誘いを断ってるとか、戸田さんとは別で会おうと思ってるって言ってたのってもしかしてこのこと……?
私、余計なこと言っちゃった……)

 ひんやりとした嫌な風を頬に受けながら出過ぎた真似をしたことを後悔するちえり。瑞貴への罪悪感から自然と視線が下がってしまった。

「お待たせぇ~……」

 いきなりテンションガタ落ちとなった長谷川を同期の女子社員が苦笑いしながら支えている。だいぶ飲んでいたのか、時折欠伸を噛みしめながらその目も半開きになっていた。

「……大丈夫ですか? 長谷川さん」

 ちえりも慌てて彼女を支えようと傍に駆け寄ると……

「あは~ん!! 若葉っち好き好き~っ!!」

 と、しがみつかれてしまう。本当に馴染みやすい長谷川に苦笑していると、何者かが彼女の襟首を掴みタクシーへ放り投げた。

「ぎゃぁあああっ!! まだ帰りたくなぁあ゙い゙い゙い゙」

 断末魔のような声を上げ、発信したタクシーの窓ガラスに顔を押しつけながら物凄い形相で助けを求める長谷川。
 可哀想だとわかりつつも思わず笑みが零れてしまう。

「はぁ……酒癖わりぃなあの人……」

「あはは……」

 パンパンと手を払いながら腰に手をあてた鳥頭。
 どうやら彼女を放り投げたのはコイツの仕業らしかった。
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