青いチェリーは熟れることを知らない①

瑞貴に降り続ける雨

 もうすぐゴールデンウィークがくるというのに勝手に自分に枷をはめ戒めるちえり。
 ほどなくして風呂から上がり、髪を乾かし終えてリビングに戻る。

「あ……」

 明るいリビングのなか、視線の先には布団もかけずベッドの上でうつ伏せになっている瑞貴の姿があった。

「センパイ……苦しくないですか? お布団かけないと風邪ひいちゃいますよ」

「ん……」

 小声で呼びかけると、わずかな反応を示すが起きる気配はなさそうだ。そして疲れているであろう彼の安眠を邪魔するのは可哀想なので、ちえりは"アレ"を用意することに決めた。

「よし、これがあれば……」

 ニヤけた顔を引き締めながら"アレ"を手にリビングへ戻る。

(フッフッフ……薔薇の毛布の再登場だべ!!)

 ファサッと羽のように軽い極上の毛布を瑞貴の体にかける。

(キターッ! 薔薇の貴公子っっ!! ……あれ? 貴族だっけ……?)

 記憶力の乏しい自分を情けなく思いながらも鼻の下が伸びてしまう。
 またもスマホへ残してしまいたくなる衝動を懸命に抑えながら表情を陰らせる。

「……今日は本当にごめんなさい、センパイ……」

 自分がしてしまったことを謝りながら電気を消し、大人しくベッドへ入る。
 そしてゴロリと横になりながらスマホを取り出し、しばらく愛犬・タマの写真をじっと見つめていると――

「……いまの何に対してのごめん……?」

「……え?」

 いつの間にか目の前に立っていた瑞貴。慌てて体を起こすと、もうひとりの体重が加わり、ベッドがゆっくり沈みこんだ。片膝をベッドにのせた瑞貴の重みである。
 無表情の彼の顔がぐっと距離を詰め、まさか問い返されるとは思っていなかったちえりは言葉を用意しておらず口籠ってしまった。

「……ッセ、センパイ? あ、あの……っ」

「…………やっぱ言わなくていい。聞きたくない」

「……っ!」

 座ったまま抱きしめられ、パジャマを通した彼の熱がじんわりとこちらまで伝わってきた。

(センパイが私を抱きしめるなんて……やっぱりいつもと違う。お酒のせいだべか……)

 この夜二度目となる彼らしくない行動に、ドキドキよりも戸惑いや困惑の色が強いちえり。しかし、この行いによって彼の心が安らぐのなら、いまはただ……言葉無く彼の腕に包まれるしかなかった――。
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