【短編】ホワイトデーには花束を、オレンジデーには甘いキスを(三人称)

「バレンタインのお返し、期待してもいいのかな……」

萌絵は先月のバレンタインデーに課長にチョコをあげた。一粒がウン千円もする有名海外ブランドのアソートチョコを朝一番に来て手渡した。課長は慌てていた。萌絵の様子と差し出された高級品に、本命チョコだと察したのだろう。これはもらえないと押し返したものの、萌絵は強気に押し返した。「今は部下としてしか見られてないと思います、でもこれからゆっくり考えてください。返事は来月に聞きます」と。課長は「とりあえず受け取るけれど返事は期待しないでほしい」と箱を机にしまった。萌絵はありがとうございます、と礼を言うとオフィスから廊下に駆け出してきた。ふたりの様子をドアの隙間からうかがっていた佳織を見て、萌絵は大きな瞳に涙を浮かべていた。がんばったね、と佳織は萌絵の背中を叩いた。

恋なんて先に好きと言ったほうが勝ちだ。それは男女の間の告白の話だけではない。こうした女の子の間でもそうだ。課長が好きと先に言われてしまったら、言われたほうが自分の気持ちをしまい込むしかない。私も課長のことが好きだと言ってはいけないのだ。たとえ自分がが先に好きになっていたとしても。でもいい。どのみち課長は私のことなんて眼中にないだろう。そんなことを佳織は考え、ちらりと課長を見やった。

真佐透(まさとおる)課長。32歳、独身。恋人は仕事と公言している。週末は図書館で調べもの、週2回のアフターはジム通い、月一のドライブはひとり気ままな旅。疲れたらパーキングで仮眠なんてことをするから女の子は邪魔以外の何物でもないらしい。
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