僧侶とホストと若頭、３つの顔に揺れる恋

最後列に座ろうと移動しかけたあたしに、悠斗がトンと畳を叩き、自分の隣りに座れと命じる。

住職が悠斗に何事かと声をかけると、悠斗はサッと後ろに下がる。

あたしは小僧や僧侶、寺の事務員やバイトの巫女(みこ)から「若様」と呼ばれている悠斗に弄(もてあぞ)ばれているとしか思えない。

悠斗は人前では、丁寧語の穏やかで親切な優しい対応をする。

あたしを見上げた悠斗の視線にたじろぎ渋々、悠斗の隣りに正座すると、悠斗はニッコリと微笑んだ。

住職が直径５０センチほどの大きな御鈴を鳴らし、厳粛な声を響かせ、お経をあげ始める。

それに１ぶのづれもなく、悠斗と小僧の声が重なる。

粛々と流れていく時間の中で、聞こえるのは読経の声だけだ。

い草の清々しい匂いに混じって、あたしの隣りでお経をあげる悠斗から石鹸の香りがする。

お香の辛気臭い香りとは違う、包み込むような軟らかな香りだ。