君の体温は適温かもしれない
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スマイリーキラー



彼氏が出来てから四年。
私がお楽しみのセックスをする相手には多少の条件があった。

一、一晩の関係であること
二、名前や年齢などの詳細条件をお互い明かさないこと

幸運なことにこういった条件の男性は割とすぐに見つかり
社長から大学生、はたまた浪人生やフリーターまで人種も様々だった。
一晩以上の関係を求めようとするだろうという人も数いたが
(そういう人は現実に満足していない若者に多いので最近は避けている)
困った場合は相手が寝ている間に帰ってしまえばいいので苦労はしなかった。


それで今、喫茶店の木製テーブル越しに私の目の前にいる男性、
彼の名前は翔(かける)ちゃん。
気に入った男性には名前にちゃん付けで呼ぶのは私のクセであって、
男性として見ていないからだとか彼がカマっぽいからとかそういう理由ではない。

いたって普通のサラリーマン、とご紹介したいところであるが
見た目だけで不良がサラリーマンになったというのがありありとわかる。
眉毛なし、目つき鋭い、すぐ眉間にシワがより、
正直言って真面目な青年のトレードマークである黒縁メガネはあまり似合ってない。
今吸っているタバコだって何歳から吸ってるのかわかったものじゃない。
もくもくと立ち上る煙の匂いは心地よく
一丁前につけているバーバリーの香水よりも彼に似合っている気がした。

彼との出会いはまた後ほどに紹介するとして
そんなチンピラ風の彼は私の顔を見ると犬が飼い主を見つけた時のように
柔らかい顔をして微笑むのだった。


「なに?」

「いやぁ、好きだなと思って」


こういう風に直球の好意を向けられればどう言う顔をすればいいのだろう。
微妙な顔をしてしまえば彼を傷つけてしまうのではないだろうか。

「ありがとう」

と伝えるのが精一杯だった。

私が感謝の言葉を述べても彼はますます顔を綻ばせるだけで。

「僕は2番目でいいからずっと一緒にいて欲しい。」

最初は冗談だと思っていながら流していたがもう1ヶ月以上こう言っている、
そうなるとただの冗談では片付けられなくなってくる。

そんな怖い顔をしてなんで一人称が僕なんだよ、とツッコもうと思い口を開いて、

「君が飽きるまでは一緒にいてあげるよ」

と別の言葉が出てきた。

「逆だよ。

薫(かおる)が飽きるまで側にいさせて。」


こういう時に私が彼のことを可愛いと思っているところが
一層事態をややこしくしていることは自覚済みだ。





ーーーースマイリーキラーがここにいた。
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