異国の王子の花嫁選び

9、朝練

日も明けきらない早朝。
リシアは手短に身支度を整え、使用人に見えるような、質素な格好をする。
顔の腫も引いている。

昨晩、ベルゼラの一行が入城したことは、部屋の中にいてもわかった。
そわそわしだしたリラに様子を見に行かせると、興奮して戻ってきた。

「それはもう勇猛な赤い騎士たちでしたわ!」
「王子はどんな?」
リシアは一応聴く。
「どなたも格好良くてみんな王子さまに見えました!」

リラの興奮が移り、謹慎中のリシアも見に行きたくなったのだ。
きっと朝練などしているだろうと予想する。
扉の外には、王騎士のザッツが壁を背にしていた。一晩中、リシアの部屋の扉を守っていたようであった。
「朝早くからどちらにいかれるのですか?」
「少し、王宮の周囲を散歩なの。心配なら付いてきて!」
「その格好でですか?」
返事をせずに、リシアはザッツの横をすり抜ける。ザッツは後ろに付いた。
「わたしを部屋に戻さなくて良いの?」
「あなたをお守りするのが任務ですから。それはどこでも遂行できます」
ザッツの言うように、部屋で謹慎を守らせるのが彼の仕事ではない。

融通のきかない真面目な堅物も案外いいじゃない?
立派な壮年の王騎士をつれた使用人ってどうみえるのかな、と思いながら、リシアは目指すところに急いだ。

早朝に見に行きたいものは、ベルゼラの騎士たちの朝練である。

12人の騎士と王子に割り当てられた客室のすぐ外には、体を動かせるスペースがある。朝からなにかしら体を動かしている人がいるはず!
と思っての視察である。

案の定、ベルゼラの騎士たちは鎖帷子を脱ぎ、肌着姿で体を動かしていた。
個人の準備体操を一通り終えると、ペアになっての準備体操となる。
お互いを引っ張りあい、乗合いながらストレッチを始めていた。

リシアは、早朝のキンとした空気のなか、声をかけながら組合う褐色の肌、濃い色の髪の男たちの中から、昨日の森で会った男を探した。

良く似た鍛え上げられ、絞られたからだの男たちの中で、リシアはラリマーと名乗った男がすぐにわかる。
吸い付くように一瞬で視線が捕らえられたのだ。
ほんとうに騎士だったんだ、と思う。

視線に気がついたのか、ペアの前屈のサポートをしていた昨日の男が、リシアに気がつく。
リシアが誰かわかり驚き、すぐに笑顔になった。

「シーアじゃないか!」

リシアに大きな声がかかった。
ペアでストレッチをしていた、全員の顔が一斉にリシアに向く。
異国の王子の騎士たちの集まった視線に顔に血が登る。中には王子もいるに違いない。
返事を返す。

「ラリマー」

リシアが軽く手を振ると、ラリマーと呼ばれた昨日の男はストレッチを手伝うのを止めて、リシアのところへ走ってきた。
彼も仲間の視線を浴びている。
気温はまだ20度をこえないとはいえ、アズールは既に汗をかいている。
黒髪が頬に額に張り付いていた。

「シーアは王城で働いていたんだ!こんなところで会えるとは思っていなくて、わたしはうれしいよ」
素直に喜びを表す、ベルゼラの騎士に、リシアはどきまぎする。
「朝から早いのね!今朝は準備体操だけなの?念入りにストレッチしているけど、これから剣技の練習を?」
「いや、これから体術だ」
いたずら気にリシア見た。
「まだ時間があるようならベルゼラの体術を見ていく?」
「ないけど、少しなら見たい!」
ははっと笑う。
アズールにはリシアの輝く笑顔が楽しい。
「あなたは猟師の娘だと思っていた。お城で働いているなんて思いもしなかったよ」
「普段は城なんだけど、昨日は城を抜け出して狩りをして大目玉よ。今も謹慎中」
アズールは少し離れてリシアを見守るのように控える真面目な顔をした壮年の騎士に気がついていた。
「彼は何か?」
「さあ?」
リシアは肩をすくめる。
「ベルゼラの体術を偵察じゃないかしら?」
アズールはリシアの手をとり、近くまで連れていく。その後ろからザッツが続く。
彼は仲間の元に戻る。
「では、体術を!」
誰かが始め!の声を掛ける。
一斉に彼らは腰を落として組み合った。


本当の王子の騎士のラリマーは、戻ってきたアズールと組み合った。
「いったいどういうことです?あなたはラリマーと名乗るならば、アズール王子はどこにいるのですか?」
ベルトをお互いをつかみ合う。
「わたしの目の前に!」
がっつりベルトを取る。
「ありえません!!」
ラリマーは腰を振り、アズール王子の手を引き剥がす。
「シーアがいる時にはあなたとわたしは入れ替わる!少なくとも今は!」
隣で組み合っていた長身のノキアは会話を聞いている。
「王子、面白いことをされていますね!みんなに徹底させましょう」
「ぜったい嫌です!」
ラリマーはアズール王子に体当たりして、両ベルトをとった。その勢いで、足をかけてアズール王子を引き倒す。
「す、すみません、王子、、つい本気に」
ラリマーは手を取り、アズールを引き上げる
「いや、いい。王子扱いはしないでくれ。もうひと勝負だ!」



しばらくリシアはベルゼラの体術の取りくみを見ていた。かなり実践よりのようだった。
もともと体を動かすのが大好きなリシアである。うずうずとする。
「面白いな!」
ザッツが後ろで言う。
彼もデクロアの王騎士である。異国の体術には興味があるようだった。
そろそろ朝も日が高くなってきた。
「ザッツ、帰るわよ!」
リシアは最後にラリマーに手を振り駆け出した。

本物のラリマーはアズール王子にささやく。
「あの娘なのですね。良かったですね、会えて」
「そうなのだが、これで終わりなのか?」
アズールは不満げである。
「ゆっくり会えるセッティングをしてくれ!」
「はあ?!」
デクロア国の姫をもらいにきながら、使用人の娘と会うセッテングなどできるか!
と思うラリマーであった。
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