嘘つきは恋のはじまり
トイレへ立つついでにこっそりロッカールームへ寄って父に電話をかけてみると、すぐに繋がった。
病院から言付かったことを伝えると、慌てた様子ですぐに病院へ向かうと言う。
お前は仕事が終わってから来なさいと言われ、わかったと電話を切ったものの、胸はざわついている。

こんな気持ちで仕事とか、全然集中できない。
早く、早く病院へ行きたい。
私が仕事を優先したために母に何かあったらどうしよう。
容態が悪くなったらどうしよう。
考えれば考えるほどネガティブな方向へ心が傾いていく。

「水沢さん、顔色悪いですよ?」

亜美ちゃんが気遣ってくれるのをいいことに、私は早退してもいいか打診してみた。
幸い今日はそれほど忙しくもないし、代わりに人を当てなくても何とかなるかもしれない。

「全然気にしないでください。お大事に~。」

明るい亜美ちゃんの声に救われる思いで、私は事務所を出た。
超特急で着替えてその後はダッシュだ。
大手企業(工場)というのは無駄に敷地が広くて困る。
ロッカールームから会社の門まで走っているその時間さえ、とても長く感じてしまう。

門を出て急角度に曲がったところで人影があるのに気付いてブレーキをかけたけれど、カバンがぶつかってしまった。
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