嘘つきは恋のはじまり
白く冷たい壁が続く細い廊下の先に、隠れるようにして設けられている面談室。
手術結果を聞くために、父と入室した。

手術着のままの先生の前に座り、結果を聞く。
机の上には赤黒い塊がのった膿盆が置かれていた。

「これが癌ですよ。」

先生が赤黒い塊、何かの臓器を広げながら、切り取った癌を見せてくれた。
白っぽくてブツブツのような複雑な網目のような塊。
これが癌。
こんなものが母のお腹の中にいたんだ。

「全て取り除きました。」

端的に言う先生に、私と父は、

「ありがとうございました。」

と、深々と頭を下げた。
お礼以外の言葉は何も浮かばない。
ただただ感謝のみだ。

ひとまずはこれで余命が延びたのだ。
あとは再発に気をつけていけばいい。

ほっとしたのと同時に、だいちゃんにもこのことを伝えなくてはと思った。
だけど、だいちゃんとの恋人の契約は母の手術が終わるまでだ。
手術が終わったから契約解消ということになる。

何だか突然ものすごく寂しい気持ちに襲われて、私はこめかみを押さえた。
これでだいちゃんとの繋がりは消えてしまうんだ。
これでいいのだろうか。

お世話になりっぱなしなのもよくない。
お礼くらいはしてもいいよね?

そんな風にまた都合よく考えて、私は病院を後にした。
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