フェイク×ラバー

「…………ありがとう」

 はじめが短い礼と共に、体を離す。
 すぐ間近にあったぬくもりが遠ざかると、途端に寒さが強く感じられるようになる。

「……いえ」

 気にしてませんよ、と余裕のある態度を見せたかったのだが、恐らく失敗に終わっている。
 明らかに自分は、動揺を隠せていないと思う。

「──乗って。送るよ」

 ただはじめは、一瞬にしていつもの調子を取り戻したようだ。助手席のドアを開け、美雪に車へ乗るよう促す。

「……お願いします」

 いつまで意識してたら、バカみたい。
 美雪は気持ちを切り替え、助手席に乗り込む。

 もうすぐ、長い一日が終わる。予定外のことがあったりもしたけど、ようやく終わる!
 帰ったらヒールを脱いで、ドレスも脱いで、化粧も落として、お風呂にゆっくり浸かって疲れを癒す。

 それから、ほんのちょっとだけゲームをしたりなんかして、一晩眠れば、慣れ親しんだいつもの日々が、私を待ってる。


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