フェイク×ラバー
お出かけのお話。

 一人でカラオケには行けない。
 もちろん、焼き肉も行けない。

 じゃあ映画は?

 答えはノー。ひとりじゃ行けない、ってこと。

 美雪は総務部の自分のデスクで、食い入るようにスマホの画面を見つめ、ため息をつく。

「もうすぐ公開、終わっちゃう……」

 スマホの画面には、現在公開中の映画のリスト。
 その中の一つに、美雪が以前より観たいと思っていた映画がある。
 原作は、美雪もインストールしている、スマホのゲームアプリ。アニメ化は既にされていて、こちらはレンタルショップで借りて視聴済み。

 そして今回、とうとう実写化!
 しかも映画!

 これは是非とも観たい!

 けど映画館に一人じゃ行けない。

「清花さんを誘うのは申し訳ないし……」

 気軽に映画に誘える相手が美雪には数える程しかいなくて、しかもその多くが他県に就職してしまった。映画を観るためだけに、彼女たちに来てもらうのは申し訳ない。
 けど清花を誘うのは、もっと申し訳ない。

 だってこの映画、絶対に清花さん、興味ないもん!
 以前、フランス映画に誘ったことがあるのだが、清花は気を遣って「面白かった」と言ってくれたが、あれは絶対に面白くなかった人の顔だ。
 あの顔を見て以来、清花さんを映画に誘うのはやめよう、と心に誓った。

 なので誘うわけにはいかない。
 けど観たい!

「どうしようかな……」

「悩み事?」

 頭上から声が降って来て、美雪は慌てて顔を上げる。

「犬飼さん」

「驚かせちゃったかな? ごめんね」

「いえ、大丈夫です」

 犬飼は人懐っこい笑みを浮かべ、自分のデスクにコンビニの袋を置く。

「今日はお弁当じゃないんですか?」

 犬飼はいつだって、愛妻弁当を持参していた。
 なのに今日は、コンビニご飯。

「子どもがインフルエンザになっちゃってね。弁当どころじゃないんだ」

「それは大変ですね。奥さんは大丈夫なんですか?」

「それが不思議と大丈夫なんだよ。あの人、風邪はもらうけど、インフルはうつらないんだよね。でも僕はもらっちゃう可能性大。だから家じゃ、完全隔離だよ」

 そう言って、犬飼はコンビニで温めてもらった幕の内弁当を食べ始める。

「あ、雀野さんも気を付けてね。もしかしたら僕のせいでインフルうつっちゃうかもしれないから」

「大丈夫ですよ。心配しないでください」

 美雪は笑顔で席を立つ。
 今日は美雪も、コンビニご飯なのだ。

 いつもは清花とお昼に行くが、今日は営業部との外せないランチミーティングがあるとかで、一緒にご飯に行けない、という旨のメールが来た。


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