トリップしたら国王の軍師に任命されました。

 そろりそろりと、明日香は歩き出す。するとジェイルが一歩踏み出した。

 二人の距離が縮まる。ジェイルの長い手が伸びる。明日香は地を強く蹴り、彼の胸に飛び込んだ。

彼の体温を感じる。しっかりと抱きとめてくれる腕に、不安が溶かされる。

「ジェイル……!」

 夢じゃなかった。彼はたしかにここにいて、自分を愛してくれる。心配なんていらなかった。

 明日香の目に涙の膜が張る。

「お前、いったいどこにいたんだよ」

 絞り出された掠れ声が、明日香の耳をくすぐる。

「川に落ちて、気づいたら元いた世界に戻っていたの」

「もういい。説明は後で聞く」

 そっちから尋ねたくせに。唇をとがらせる明日香を、ジェイルは痛いほど強い力で抱きしめた。

「おかえり」

 潤んだ明日香の瞳から、雫が流れ落ちた。

「ただいま」

 明日香は力いっぱい、ジェイルに抱きつき、首筋のにおいを吸い込んだ。

(やっぱりここが、私のいるべき場所なんだ。そう思わせてくれるこの世界を、この人を、私は守る)

 強く心に誓った明日香は、しばらくジェイルにしがみついて離れなかった。

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