トリップしたら国王の軍師に任命されました。
人々が平和な日々を満喫していたある日。
「ねえ、もう動いてもいい?」
明日香は目の前にいる肖像画家に尋ねた。
ペーターが突然「そういえば、結婚記念の絵画も描かせていないではないですか!」と気づいたのがきっかけだった。
写真のない世の中。肖像画が、代々の国王の姿を記録に残す唯一の手段。二人は正装し、肖像画家の前に立った。
しかし写真ではなく絵なので、尋常ではない時間がかかる。二時間立たされ、明日香のハイヒールを履いた足は限界を迎えていた。
「王妃さま、もう少し……」
ペーターがなだめようとした瞬間、部屋の扉が無遠慮にノックされた。
「国王陛下、隣国からの使者でございます。面会を求めておりますので、お急ぎください」
扉の向こうから緊張した声が聞こえ、ふたりは顔を見合わせた。
「そんなに急いでどうしたの?」
明日香はここぞとばかりに動き出す。画家が泣きだしそうな顔をしたのを、見て見ぬふりをした。
「海の向こうの国が宣戦布告してきたので、援軍を頼みたいとのこと」
それを聞いた途端、明日香の目が水を得た魚のように、キラキラと輝いた。
「なんですって。行こう、ジェイル。早く」
飛び跳ねて手招きした明日香は、勝手に扉を開けて駆けだしそうな顔をしている。
「……仕方ないな」
苦笑を漏らし、ジェイルは王妃の後を追う。跡継ぎの早期誕生を望み、平和を愛するペーターは頭を抱えてうなった。
娯楽の少ない異世界でも、明日香は退屈することなく暮らしていけそうである。
ふたりの戦国絵巻は、まだまだ序盤なのであった。
【完】


