恋の宝石ずっと輝かせて
「変質者が出たんだ」

「変質者?」

 トイラが繰り返す。

「そう、変質者。あの時胸が痛くなって、その後どうなったか覚えない。でもどうやって私戻ってきたんだろう。それからの記憶がない」

 ユキは首をかしげている。

「なあ、胸が痛くなったって、大丈夫なのか」

 トイラが恐る恐る訊く。
 胸の痣の大きさを確かめたい。

 トイラは露骨にユキの胸の辺りに視線を向けていた。

「うん。ちょっとなんかぶつけて青痣ができた感じだけど……えっ、ちょっとどこ見てるのよトイラ」

 ユキはあたふたして手で前を隠す。

「隠すほどのものでもないだろ」

 キースがまた揶揄した。

 ユキは憤慨してキースに殴りかかろうとするが、すばしっこくよけられて、空振りに終わった。

 ちょっとキース。

 キースのせいで、ユキは昨晩の事を深く聞けなくなった。

 変質者に驚き、ショックのあまり記憶がとんだとしか考えられない。 

 一晩寝てしまうと不確かな記憶は益々曖昧になってわからなくなっていく。

 ひとつ確かなのは、トイラが元気になったということだ。

 トイラを見れば、不機嫌さはいつも通りだが、あの苦しんでいるトイラをみるよりはずっとよかった。

 ユキはいつもの日常に戻った事を喜ぶ。

 あちこち体の痛みは残るが、それでも笑顔になれる朝だと思った。
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