恋の宝石ずっと輝かせて
 朝の通学途中。ひとりで前を歩くトイラの後姿を眺め、ユキは微笑んだ。

「何、笑ってんの?」

 隣にいたキースが訊く。

「トイラは猫背だなって思って」

「なるほど」

 キースは自分の背筋を伸ばした。
 トイラは習性だからいいが、自分が猫のつく言葉でそういわれたらたまらない。

 学校に近づくにつれ、人通りが増えてきた。

 のどかなぽかぽかとした天気。

 トイラが愛想悪くても、心安らぐほど春の日差しが柔らかい。

 すれ違う小学生が、物珍しそうにトイラとキースを眺めていく。
 好奇心旺盛の子供は物怖じなくハローと声を掛けていた。

 キースはそれに笑顔で答えていたが、トイラは面倒くさそうにしている。

「ハローハローってうるさいんだよ」

 流暢な日本語で子供たちに言えば、あどけない瞳を向けて「日本語わかるの?」と子供たちはさらにトイラに問いかける。

「ほら、お前ら早く学校行け、遅れるぞ」

 蹴るフリをして蹴散らし、子供たちはキャッキャと楽しんで走っていった。

 ユキはトイラらしいと見ていた。

「ねぇ、キース。学校でも別に猫被らないで日本語話せないフリをしなくてもいいんじゃない?」

「猫を被る? その言い方は好きじゃないけどさ、普通に話したら僕たち人気者になりすぎて、みんな気軽に話しかけてくるだろ」

「それって、楽しいじゃない」

「そうなったら相手するの面倒くさくなる。適度が一番さ」

 不思議ないい訳だと思いながら、ユキは聞いていた。

 実際のところは、話せないフリをすることで人をあまり寄せ付けず、ユキの傍にいても不自然じゃないようにしていた。

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