恋の宝石ずっと輝かせて
 トイラは突如烈火のごとく、怒りに体を支配され、電流が流れるように全身がスパークしだした。

 緑の目が鮮やかに光輝き、弱った筋肉をも奮い起こして、黒豹へと変貌する。

 ユキを助けたい一身で、豹の野生の本能が目覚める。

 立ち上がり、ジークめがけて飛び掛かった。

 トイラの鋭い爪がジークの胸を深く切り裂く。

 悲鳴があがり、トイラから逃げるように後ろにジークはさがった。

 先ほどまで高らかに笑っていた緩んだ筋肉が一瞬にして凍り付いていた。

「魔物の実を口にして、まだ戦えるというのか」

 トイラは、牙をむき出して抑えられない怒りを、恐ろしく見せ付けている。

 トイラの気がジークの体に寒気を走らせた。

 ジークは慄然として後ずさりするものの、身を守るために、よたつきながら手のひらをトイラに向ける。

 しかし、トイラを見ると震えが起こり、狙いが定められない。

 恐ろしい異質な気が、辺り一面の色をも変える程、異様に流れていた。

(これはトイラじゃない)

 ジークは目の前の黒豹の体から、緑色の燃える炎を見た。

 それは空間を歪め、トイラの体の輪郭が溶けていくようにぼやけて、揺ら揺らと陽炎が立ち込めていた。

 その姿は、初めて大蛇の森の守り主を見た時を想起させた。

「森の守り主……これがその選ばれた力だというのか」

 ジークは完全に怯んでしまった。

 額からじわりと汗が滴り流れる。

 その時突然、狼の遠吠えが響くと同時に狼姿のキースが突風のごとく現れ、ジークに飛び掛かかった。

 しかし、ジークはコウモリの姿になってひらりとかわして、どこかへ飛んで逃げていった。

 取り逃がした悔しさでキースは顔を歪めるが、深追いはしなかった。

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