恋の宝石ずっと輝かせて
 トイラはユキを強く強く抱きしめる。

 堪えきれない濁った悲しみが胸の底から湧き出ると、涙がまつ毛にじわっと宿った。

 ユキとの楽しかった思い出が、次々と頭によぎる。

 何よりも安らぎをくれたユキの笑顔は強烈にトイラの心を締め付けた。

 その瞬間、トイラは歯を食いしばり悪魔に取り憑かれたような恐ろしい顔つきで覚悟を決める。

 ユキを生贄のごとくじっと見つめながら、心を鬼にしてトイラは決断した。

 ──ユキの命の玉を奪う。

 ユキの口元にトイラの口が重なる寸前だった。

 突然、ジークが天空をも駆け抜ける金切り声を上げる。

 その悲惨な劈く音は、死に物狂いで集めたトイラの集中力を撹乱した。

 またトイラは激しく動揺してしまう。

「なんだ、これは。すごい気を感じる。あの時と同じだ。大蛇の森の守り主を初めてみたあの時だ。背筋が凍るような異質な空間、そして辛辣な匂い」

 キースが突然叫び出した。

 この場に及んで、何かの異変が起こった。

 トイラがジークを振り返ったときだった。

 半分に割れた太陽の玉がジークの手元から滑り落ち、地面にぽたりと落下したかと思うと、二つに割れた太陽の玉の間から荒れ狂った竜巻のように漆黒の闇がうねりをあげて現れ出た。

「一体何が起こってるんだ」

 トイラがそう叫んだとき、漆黒の闇は巨大な力をもってジークを引きずり込もうとしていた。

 ジークの姿は立体感がなくなって見え、映し出された影のように薄っぺらく引き伸ばされた。

 何かにがしっと捕まえられたように、体が横に伸びては半分に割れた太陽の玉に強く引っ張られ、吸い込まれそうになっている。

 時々、コウモリの姿が浮かび上がり、また人の姿になったりと、激しく交互に姿が変わる。

 人の姿とコウモリが分離しているようにも見えるようだった。

 ジークは引き込まれないように必死に抵抗する。

 地獄を見たような形相で腹の底から叫び声をあげた。

「助けてくれ!」

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