恋の宝石ずっと輝かせて
 その晩、ユキは父親に言った。

「私、パパと一緒に行かない。日本で高校を卒業したい。だからパパ一人で向こうに行ってきて」

「そっか、ユキがそういうのなら、パパもここにいるよ」

 ユキはソファーに座る父親の後ろに突然回って、肩をもみだした。

 父親は娘のサービスに照れながらも肩がほぐれていくのが気持ちよく、心までほぐされていくようだった。

 口元が自然にほころぶ。

 少し見ない間に自分の娘は成長していた。

「なあ、ユキ、あの新田仁君だけど、あの子はユキのボーイフレンドかい?」

 父親として気になるのか、そっと訊いた。

 ユキは仁のことを少しばかり考えてみた。

 父親はユキの答えをずっと待ってるのか、慎重な面持ちだった。

 ユキはそれを見るとくすっと笑いをもらした。

 顔を上げれば、目の前でトイラも同じように笑いながらユキを見ている。

 美しいエメラルド色の瞳がくっきりと見える。

 ぶっきら棒にいきがってかっこつけていた。

 ──トイラがこんなにもはっきり見える。私、前を向いて歩いてるんだね。トイラと一緒に。そうだよね。

『ユキ、しっかり前を向け。俺も一緒についていくぜ』

 そんなトイラの声が聞こえてきそうだった。

 ユキはうんと力強く頷く。

 そして父親の耳元で小さな声でごにょごにょと囁いた。

「えっ、ユキ、今なんて言ったんだい?」

 ユキはそれ以上何も言わず、にこやかな笑顔をみせながら、父親の肩をひたすら力強く揉んでいた。


<THE END>
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