狼を甘くするためのレシピ〜*
 昨夜、ラウンジを出てから、『今の人は燎さんのお友だち?』不自然にならないよう、話を切り出したつもりだった。
 既に友達だとは紹介されていたから、紗空が聞きたかったのはどんな仕事をしていて、燎とはどういう友達で、どういう人なのかということだ。

 でも、たったそれだけの言葉に、恋人の燎は眉間をひそめたのである――。

 紗空の少し困った顔を見て、蘭々はハッとした。

「あ! もしかして紗空ちゃん。燎に叱られた? そうなんでしょ」
 驚いたように紗空は目を見開く。

 思った通りだと、今更のように蘭々は頭を抱えて謝った。

「ごめんね。紗空ちゃん」

 紗空の恋人須王燎は、プライドの高い男である。
 自分の恋人が他の男に興味を持つことを許すはずがないのだ。

「いえいえ、まあ――その、私の聞き方が悪かったんです。でも大丈夫です!納得してくれましたからっ!」

 慌てて紗空は左右に上下に首を振る。

「とりあえず、燎さんにこう言ったんです。『私の友達が、あの人と一緒にいるのを見たことがある』って」

「それで納得してくれたの? 怒ってるなら私が」

「いえいえ、本当に大丈夫です」

 ――実は。

『紗空、俺がそんなことを許すと思うか?』
 散々弄られた昨夜のことが頭を過り、紗空は耳まで赤く染めたが、コホンと軽い咳で気持ちを落ち着けた。
< 172 / 277 >

この作品をシェア

pagetop