狼を甘くするためのレシピ〜*
 本当にうっかり忘れたのだが、わざと忘れたとは思われたくはない。それに、ネクタイも渡し忘れた。

 朝別れたあとケイからは何の連絡もないし、自分から連絡を入れるのは絶対に嫌だ。

 行くなどと連絡をしたら、鍵がほしいみたいではないか。
 やはり絶対に行くとは知らせたくない。

 仕事の帰りにいきなり寄って、いればそれでいいし、いなければそれでもいい。
 そう決めた。

「ありがとうね、紗空ちゃん、なんかもう何の悩みもなくなった気がするわ」

「そうですか! お力になれてよかったです」

 紗空を見送りながら、心に誓う。

 ――白黒はっきりさせなければ。
 鉄は熱いうちに打てという。

 この強い決意が弱まる前に、きっちり決着をつけよう。
 アキではなく蘭々としてケイと向き合うなんて無理な相談だ。

 今更過ぎる。
 実は私LaLaなの。なんて言えるわけがない。

 LaLaという名前は人を変えてしまう。ケイだってどう変わってしまうかわからない。アキは傷つくことができても、LaLaはそんなことは許されない。

 ――私たちは大人の関係よ。

 私は絶対にすがったりしない! そして今度こそ、さよならよ。

 蘭々は仕事が終わったらそのままケイのマンションへと向かうことにした。
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