狼を甘くするためのレシピ〜*
「わかった。じゃあ帰りに買ってくるわ」

 そんな話をしながらふたりはエスカレーターで二階へと上った。

 ビルの二階全フロアが、月子たちふたりが務める株式会社Vdreamである。
 廊下にはガラス張りの会議室が並んでいるが、彼女たちのオフィスは見えない。
 扉に装備されたAIが人物を識別し、オフィスの扉を開ける仕組みになっている。

 社長が開発中のAIだ。
 名前はTARO三号。

 月子と森が扉の前に立つと、姿を見せないTAROが「お帰りなさいませ」と声を出す。

「はーい、おつかれ。タロー調子はどう?」
 月子がマイクに向かって声を掛ける。

 別に声をかける必要はないのだが、彼女はこのAIが気に入っている。

 TAROがまた「おかげさまで元気です。月子さんも元気そうですね」と答え自動扉が開いた。

 扉が開くとパーッと明るい空間が広がる。

「月子さん、キックオフミーティングの前に相談したいことがあるんですけど、いま忙しいですか?」

「いいわよ。何か資料は必要?」

「いいえ。なにも必要ありません」
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