狼を甘くするためのレシピ〜*
 ビックリして心臓が飛びさしそうになりながら、慌ててマスクをずらし、顔を見せる。

「私よ。忘れ物を取りに来たの」

『どうぞ』という声と同時に扉が開く。

 今日は玄関でピアスを受け取って、ネクタイとワインを忘れずに渡して帰るだけ。

 本当に今日が最後、いつまでも遊び相手をしているわけにはいかないのよ、と唇を噛みながらエレベーターの階数ランプを睨んだ。

 ――そういえば。
 ネックレスももらっていないことを思い出した。

 でもそんなものは、もうどうでもいい。
 形に残る想い出なんて、ないほうがいいのよ。

 言い訳のように、あれこれと自分に言い聞かせながらエレベーターを降りて、ケイの部屋の前まで来た。

 あらためてベルを鳴らすと。今度は待たせずに「よっ」とケイが現れた。

 ハッと心が動いたが、スッと息を吸って平静を取り戻す。

「バスルームにピアスを忘れたの」

「ああ、そういやあったな。ま、上がれよ」

「いいわ、今日は受け取って帰る。ごめんなさい、持ってきてくれる? それからこれワイン。お土産よ。あとこれ、昨日プレゼントしようと思って忘れてた」

 早口で一方的に捲し立てて、ワインとネクタイが入った紙袋を押し付けた。
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