魔王と勇者の望まれぬ結末
「失礼、するよ?」

「…入って構わない。」

「んじゃぁ。体調はどう?」

どこか、申し訳なさそうに優しい叩き開かれた扉から出てきたのは透き通った蒼色の瞳に瞳と同じ様な短髪の少年だった。初めはまたあの時とは違う人間かと身構えたが、彼の服装や話し方から同一人物である事が分かった。

「ねぇ?キミ?聞こえてる?」

「聞こえてる。ここは?」

「ここは僕の家だ。森に居たキミをここまで運んで来たんだ。キミは疲れて眠って居たみたいだけどね。」

「そう。ありがとう。」

彼は、どうやら私の事を魔族では無いと思って居たのだろう。人間の家に、しかも自身の家に運んだのだからーー
(…これは都合がいいかもしれない。)
私は、人の良さそうなまだ名も知らない彼を利用する事にした。じゃないと母様の願いを叶えられないと感じたからだ。私がそんな考えをしている事を知ってか知らずか彼は自分の事を話し始めた。私を見つけた森によく行くだとか、最近色々な勉強を始めただとか、正直私に言われても全く訳が分からない。しかし彼は続けて言った。

「僕は、ラルト。ラルト・アーランドだよ。歳は丁度10になるかな。キミの名を教えてくれないかな?いつまでも”キミ”という訳にもいけない。」

私は、少しだけ悩んだ。名を教えてそれからどうするつもりだろうと…この人間、ラルトが何をするから知らないし周りの人間が何かをしてくるかもしれない。ミーラにとって信用出来るものは母しか居なかったのだから仕方ない。
少しの間を空けミーラは、情報を最低限だけに絞る事にした。

「私は、ミーラ。歳は多分あんたと同じ。」

「ミーラ。ミーラ、よし覚えた。綺麗な名前だね。」

「…(綺麗?)」

「どうかした?ミーラ」

「い…いや、どうもしない。」

なんて馴れ馴れしく名を呼ぶのだろうと私は思い抗議しようとしたが、何故だかそんなに”悪い”感覚はしなかった。
そうして彼、ラルトは私を両親に紹介すると言い扉を開けっぱなしにして飛び出していった。
私は彼が去った後の扉を閉めに扉に近寄ったが結局閉めなかった…いや、閉めれなかったのだ。
階段下から聞こえる彼と彼の両親と思われる人間の静かな声が何故か心地良く感じられ扉を閉められなかった。しばらくの間、じっと私は彼らの声に耳を傾けていた。

その後ラルトは、両親のアーランド夫妻を私と会わせ、私をしばらくの間世話をして頂ける事となった。
この時もそうだが、私は彼らに約1年間、母様の事を一切話さなかった。それは、目まぐるしく変わった1日の中でまだ母様の事をどう話したものかと考えても結論には至らなかった為、話せなかったのもあった。
それ故に1年間もの間私は、彼らが少なくとも私に対し危害を加えないと理解するまでの時間にする事にした。
そして生きて行くには私を”人間である”と信用させなくてはいけない為でもあったからだ。

人間ラルトに、そしてアーランド夫妻と会ったこの日から私は彼らを”利用”し始めたのだった。
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