魔王と勇者の望まれぬ結末
「次代の勇者?」

「そう、次代の勇者を各地からの勇者候補から選ぶ日。それぞれの地域や国にいる3人の勇者候補から1人を選ぶんだ。」

「ふむ。それで…なんでラルトは痛そうに手を握っているんだ?」

「えっ…あ、ほんと、だ…」

「貸して」

私は、ラルトの握りこまれた指を一本ずつほどき近くの棚から薬を取り出し手のひらに塗っていく。
ラルトの手は握りこまれた部分が真っ赤になっていた。…見るからに痛々しかった。
本当は、ラルトの”次代の勇者”を選ぶ日という言葉に戸惑っていたが何よりラルトが痛そうにしているのが嫌だと感じた。
ラルトは、私に手当てをしてもらう間顔を背けていた。まるで私を見て居られないように…
その姿をチラりと見て確信した。

(ラルトは、勇者候補なんだ…)

「はい。終わった。」

「…ありがとうミーラ」
私たちの間には静かな時間と沈黙があった
それぞれに何かを感じ考えて口に、言葉にしようとした瞬間だった。

バンッバンバンッ。ドカッ…
「キャー!助け…」
「来ないでくれ‼︎く、来るな…」

外から様々な悲鳴が聞こえた。人々が泣き叫ぶ声。
走り去る音、物が倒れる音
夜の闇の中急に聞こえた音や叫びにラルトは、自室に戻った。ミーラの前に戻って来た時には右手に何かを持っていた。

それは、聖剣だった。
私達魔族は、聖なるものの気を感知する事が出来ると母様から聞いた事があった。禍々しい魔界とは正反対の明る過ぎる光を帯びた剣。
まさしくそれは”聖剣”だった。

一度だけミーラの顔を見て扉を開け走り抜けたラルト。向かうは犯人。立ち向かうラルトは、少年とは思えない立ち回りだった。
結果ラルトは、1人で犯人に立ち向かっていった。
しかし、ミーラは動けずにいた。
人間を助ける必要はない…
だが、そんな考えより先によぎったのはラルトの顔だった。

(すごく、悲しそうな…辛そうな…なんで、あんな顔…ラルト君は…なんなんだ?)

カンッカンと剣が重なり合う音や叫び声。
その真っ只中に1人…大人は手も出さずにただ見ているだけ…
その光景を見てミーラは、感じた。

(人間は嫌い。人間を助けるつもりはない…けど…)
「ラルト、君はまだこんな所で失うわけには。だから」

ラルトも人間。
それは確かだ。でも、例えラルトがいつか自分の敵になろうとも…
今、ラルトを見捨てて、自分だけが助かるのは

「…もう、見てるだけは嫌だ…っ!!」

ミーラは、傍観しているしかない大人達の間をすり抜けラルトのいる場所まで走った。
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