恋は小説よりも奇なり
絢子のわきをすり抜け玄関の外に駆け出た奏だったが、そこにはもう満の姿はどこにもなかった。
「絢ちゃん、俺の事は大丈夫だからもう帰りなさい。帰国してからまだ実家にも顔を出していないのだろう。ご両親が心配する」
部屋に戻った奏は諭すように絢子に言う。
それに対して、絢子は不満タラタラに口を尖らせた。
「……また子ども扱い。いつまでも親の顔色気にしてる歳じゃないんだからいいのよ」
「しかしね……」
嫁入り前の女性が独身男の部屋に泊まりこんでいるのはいかがなものか……などと奏は頭の中で考えていた。
ずっと看病してもらっていた手前“帰れ”と追い出す事もためらわれる。
「まさか、私が海外勤務に勤(いそ)しんでいる間に彼女とかできて、ここに居られるとマズイとか言わないわよね?」
気だるそうな奏の後ろで子犬のようにキャンキャンと食ってかかる絢子。