大嫌いの裏側で恋をする
***
そんな、彼氏との別れを笑い飛ばせた月曜日から数日は高瀬さんは直行直帰が多く、ほとんど顔を合わせることなく過ぎた。
ホッとする反面、どこか寂しさを覚えていたことは認めなくては、いけないかも。
と、思い始めていた頃。
『一課の高瀬さんと三課の吉川さんって付き合ってるの?』
なんて声が猛烈な勢いな社内を駆け巡った。
私がそれを耳にしたのは出社してすぐ。
更衣室でいそいそと制服に着替えている時だ。
『近くのカフェに2人でいるところ見た子がいて』
『テーブル席が埋まってたわけじやないのにカウンター席で寄り添って座ってたって』
『〝気付いちゃったんだよね、好きだって〟って吉川さんが言って、そしたらね』
『〝好きに決まってんだろ〟って、高瀬さんが答えたんだって!』
呑気なあくびが固まって、顎がマヌケにコキって音を鳴らした。
いやいやいや、ちょっと待って、そんなの吉川さんから一言も聞いてないし、高瀬さんだって何も。
――聞いてない、と思って、それが凄く悲しく思えて頭の中がボヤけてく。
(……吉川さんと、高瀬さんが)
背後で繰り広げられた噂話は更に続き、美男美女でお似合いだと喜んでたり、高瀬さん密かに狙ってたのになぁ、なんて声が聞こえたり。
吉川さんは、なかなか彼氏作らないなと思ったら理想は高瀬さんだったのかぁ、なんて納得されてたり。
黙って聞いていると、突然鼻の奥がツンとしてきたものだから慌ててトイレへ駆け込んだ。
バタン、と乱暴に個室の戸を閉めうずくまる。
少し滲んだ涙。
この涙はなんだろう。
私は何に傷付いているんだろう。
大好きで仲良しな先輩が、何も話してくれなかった事?
それとも、高瀬さんが吉川さんを好きだったから?
わからない、わからない。
環境が変わったから、この心は荒んでいるのか。
変わらなくても、荒んでいたのか。
この涙は、
狡くて、薄情で、軽薄で、あさましい。
なのに、止まらない。