大嫌いの裏側で恋をする


「おい、こっち」
「は……? な、なんで」

悠介とやらを引っ張って、蹴り飛ばした自転車の近くまで移動させる。
乱暴に掴んでた襟元を離してやると、よろよろとふらついて壁にぶつかった。

そしてそのまま座り込む。

(いや、しっかりしろよ……仮にもお前、未練あんなら俺って今かなり邪魔者だろが)

これではまるで自分が一方的にボコってやろうかって絵面だろう。
気分は決してよくないが、仕方ない。

手短に済ませるかと、どう考えても空気はピンと張り詰め冷えているというのに、少し汗ばんでしまっている前髪を掻き上げた。

「何でって、あいつにどれだけ言ったところでお前がちょこまか動き回ってる限り、俺は延々イライラさせられんだろが。ごめんだ」
「……え」
「何が”もう”新しい人がいるの? だよ、ふざけてんのかお前」
「な、ふざけてなんて」

見下ろし、舌打ちをした。
言い返してくる声に、酷く苛立ったからだ。

「泣かせてまで別れたんだろ、これ以上振り回すな!」

俺はその苛立ちをそのまま声にして相手にぶつけ、怒鳴りつける。

外で、しかも人通りがそこそこある状態で……我ながら余裕がないとは思うが。


「……え。み、みな、美波が、泣いて」

うろたえ、心底驚いたような声を出した男に、沸々と怒りはさらに増していく。

「あ? 当たり前だろ。あいつは惚れてもない男と付き合わねーよ。んなこと、わかってんだろ」
「それは……もちろん、知ってますけど」

眉根を寄せて、悔しそうな声を滲ませた。
何に悔しがっているかは見当がつくし、だからといって気にしてやる義理もない。

「”もう”男がいるのは、俺が、ずっとあいつに惚れてたからだよ」
「え……」
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