大嫌いの裏側で恋をする



***

――月曜日。
いつもは始業時間ギリギリに駆け込んでくることが多い石川の姿が既にデスクにあった。

「どうしたんだ、早いな」

声を掛けながら左手首を見下ろし時計を確認するけど、どう見ても8時半だ。
ちなみに始業時間は9時。

「ちょっと田代さんと早く来る約束してて」

ニヤニヤと口元に手をやりながら、珍しい名前を出した。

「何、仲良くなったのか」
「……ふふん。少しは」
「へー、いつのまに」

自分の気持ちに気がついたキッカケが、田代さんとの不仲に負けじと挑むこいつの姿だった。
……だけに、何やら感慨深いものがある。

(に、しても。なんだこいつ、ニヤけて)

嬉しいことがあったのは間違いなさそうだが、本人は隠してるつもりらしく。
何とか口を引き結ぼうと努力してるみたいだから気がつかないふりをしてパソコンの電源を入れた。

今日は月次報告の締め日なわけで、ちょっと前まで時間ギリギリ俺に泣きつきながらデータを上げてきてた石川も。

(今じゃ、さっさと一人で終わらせて手が掛からなくなったもんだな)

素早く承認して経理にデータを流す。
いつもなら二人してバタついてた月初もここで手が空くから、残業せずとも今月の予測を作成して。
この間から、そんな流れが定着してきた。

(ひとつずつ、理解していけばいいって言ったんだけどな、俺は)

いつだったかの、石川に言った自分の言葉を思い出した。

こう、何個も一気に飛び越えて行かれると、つまらない気分になるものらしい。
勝手なものだなと自嘲しつつ、まずは仕事だ。
眠気を抑え込みながら指が覚えてる社員ナンバーを叩き、システムにログインした。

 
 

***



「あ、高瀬さん! おかえりなさい!」

外出先から戻ると、朝と同じく上機嫌な石川に出迎えられた。

(あ?)

けれど、もう18時を過ぎている。
末締めも終わったはずの月初、残業の必要はないだろう日に、こいつは何してるんだ。

「朝からやけに元気だな、今日。帰らねーの?」
「高瀬さんのこと待ってたんですよ」
「は?」
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