大嫌いの裏側で恋をする

なんて、悩んでみたところで。

もはやただのポーズだってもうわかってる。

いつからだったんだろう。

あの、2人で飲んだ日からだったのか。

もしかしたら悠介と付き合っていた頃からだったのかもしれない。

大嫌いだと言い聞かせながら、身の程知らずな恋を自覚したくなかっただけなのかもしれない。

必要以上に、気を張っていたかもしれない。

だって、そうでもしないと、きっと。

毎日隣のデスクで、鋭い目を光らせて書類を見る姿とか。

さりげなく見せる優しさとか。

まあ、そこそこ使える奴だな。って妙な褒め方をして笑う姿とか。

そんな、毎日の中。

強く脈打つ心臓にもっと早く気が付いてしまっていたのかも。

「なんか、すみません。このところ仕事以外で迷惑を、その……かけて」

「ああ、別に。また事務が辞めたら俺今度こそ課長に首絞められるから阻止したかっただけだし」

「切られるんじゃなくて絞められるんですか!」

叫んだ私に、ふっと力の抜けたような優しい笑顔を見せてくる。

「ん、お前はキンキン声張り上げてんのが、いいな。 やっぱ」

「……っ! な、なん、ですか、それ!」

不意打ちの笑顔。 優しい笑顔。

バクバクと高鳴った心臓を、今度こそ認めるしかない。

……私、高瀬さんのことが好き。

離れてく手が、ハンドルを握った。

それを見て私は、シートベルトを締める。

やがて走り出した車の中で、負けるもんかと、流れる景色を眺めた。

仕事だって、新しい恋だって、諦めない。

仕事の出来が悪いというならば、人の倍、足りなければもっと努力をするんだ。

高瀬さんが、吉川さんのことを好きだとしても。 それでも、彼の世界に追いつく努力をするんだ。

嘆く前に、出来ることを忘れてちゃいけない。

そう力んで、進むと決めた道は。

とても明るく照らされているように見えた。



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