わたしのなまえ

私が「ありがとう」以外のもう一声を待っていると、

「…あのさー」

赤い顔をしたまましばらく黙っていた和希が、ようやく口を開いた。

「えっと……俺がさ。いつもすぐ彼女にフラれる理由、聞いてくんない?」

なんでこのタイミングでその話なのか。

てか、私の告白の件は?!って思ったけど、

「あー、うん。なんで?」

まあ一旦聞くことにした。

「…………名前」

和希はボソッと呟いた。

「ん?」

「誰と付き合っても、俺、いつも名前間違っちゃうんだよね」

「は? 間違うってどゆこと?」

「女の子のこと、間違って『ルリ』って呼んじゃって。多分、いつもそれでフラれんだよね」

「うわー、ドン引き。他の女の名前と間違うとか最悪じゃん。そりゃフラれるよー」

私がそう返すと、和希は、

「いや、まあそうなんだけど。……てか、えっ? リアクションそんだけ?!」

と目を丸くした。

「ん? ……ああ。てか、なんで私の名前なの?」

「は? わかんねーの? バカなのお前」

和希はすごく呆れた顔で、憎まれ口を叩いた。

「なっ! バカって」

「いつもルリのことで頭いっぱいってこと!」

「えっ、なんで? ……どゆこと?!」

「あーもう……なんでこの子、こんなにバカなの?」

ピンときていない私に、和希は深いため息をつく。

そして、

「だからー、俺もルリのこと好きって言ってんの! わかった?」

再び顔を真っ赤にして、ちょっと怒ったように言った。

「…………」

心底驚いたまま、とりあえず黙って頷けば、和希が私の頭をくしゃっと撫でて、優しく笑った。
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