冷徹騎士団長の淑女教育
「分かった。ホールを出て右に曲がれば、庭園に面したバルコニーに出る。そこに行くといいよ。僕は、ここで君を待っているから」

エリックは嫌な顔ひとつせずに、ホールの入り口までクレアを案内してくれた。



長い廊下は、ホール内の賑わいが嘘のように静まり返っていた。

侍従たちがせわしなく行き交い、こんな時でも緊迫した面持ちで城の仕事に追われている。

考えてみれば、国王が体調不良の最中なのだ。慌ただしくて当然のことだろう。



(アイヴァン様は、まだ中にいらっしゃるのかしら……)

あの深紅のドレスの女性と語らい、ダンスを踊り、楽しく時を過ごしているのだろうか。

考えただけで、胸が苦しい。

できればこのまま城を抜け出し、屋敷に逃げ帰りたい。

だが世間知らずなクレアは、屋敷への帰り道も、馬車の手配の仕方も分からないのだった。



(アイヴァン様、相当怒っていらしたわ……)

アイヴァンの鋭い睨みを思い出し、クレアは身震いする。屋敷に戻ったところで、クレアを待ち受けているのはきっと残酷な仕置きだ。

アイヴァンの口から、縁を切ると告げられることが何より恐ろしい。

想像しただけで眩暈がし、クレアはバルコニーに出る手前で一瞬ふらついた。
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