冷徹騎士団長の淑女教育
「……どこに行くのですか?」

「来れば分かる」

素っ気なく答えると、アイヴァンはクレアの部屋を出て行った。



アイヴァンが出て行ってしばらくすると、レイチェルが現れクレアの着付けをはじめた。

レイチェルは、しきりに昨夜の舞踏会のことを聞いてきた。眠っているところをアイヴァンに抱きかかえられて帰ってきたため、二人で出席したものと思い込んでいるらしい。

アイヴァンの方でもエリックの悪事は話していないようなので、クレアは口を慎むことにした。どうにか言葉を濁しているうちに、いつもの何倍もの速さで着付けが終わる。

姿見の前で自分の姿を確認したクレアは、目を瞬いた。

「え? この格好……?」

話に夢中になっているうちに、クレアはいつの間にか飴色の地味な襟付きワンピースを着せられていた。簡易的に結い上げた髪に頭巾を被り、黒の編み上げベストを身に着けている様は、まるで農家の娘のようだ。

「アイヴァン様が、クレア様に着せるようにこのお洋服を私にお渡しになったのです。なぜなのかは、どんなに聞いても教えてはくれませんでしたけど……」

クレアに華やかな装いをさせるのが好きなレイチェルは、納得がいっていない様子だった。
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