冷徹騎士団長の淑女教育
それは、クレアの住むバロック王国と隣国ユーリス王国の闘いが激戦化していた、ある冬の晩のことだった。

掃除に洗濯に、庭の手入れ――。小さな体で今日も一日目まぐるしく働いたクレアは、食堂でパンとスープだけのわずかな食事を終えると、ろうそくを手に自分の寝どころのある屋根裏に戻るため、古びた階段を登っていた。

階下からは、食事を終えた使用人たちの楽しげな笑い声が響いている。

ここは邸から渡り廊下を隔てた先にある使用人専用の離れで、仕事を終えた使用人たちは、雇い主の目から解放され毎夜雑談に興じるのが常だった。

だが、醜い上にほとんど口を開くことのないクレアは、相手にされることはなかった。

「魔女の子がいたら、気分が盛り下がる」と早々に追い払われ、こうやっていつも早めに食堂をあとにする。

居室も、皆使用人ながらも暖炉のある暖かい部屋があてがわれていたが、クレアだけは隙間風の絶えない屋根裏部屋で寝なければならなかった。

はたから見れば理不尽な状況なのかもしれないが、それでも幼い頃からそう過ごしてきたクレアにとっては、当たり前の毎日だった。




クレアは、赤ん坊の頃この邸の門前に捨て置かれたみなし子だ。

そして大人の言葉を理解できるようになった頃から、雇い主の命令で、使用人の一人として働きはじめた。

もしもクレアが美しく、愛想のよい子供だったら、もう少しよい待遇を受けていたのかもしれない。

だが彼女の容姿を気遣ってあげる者も、人の温かさを教えてあげる者も、この邸には存在しなかった。
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