冷徹騎士団長の淑女教育
不服そうなクレアをそのままに、アイヴァンはさっさと小路を邸に向けて歩み始めている。スラリと長い足も、日々鍛え上げられた上半身も、出会った頃と変わらず見惚れるほどに綺麗だ。

銀色の刺繍が施された群青色の上着に、髪色と同じ漆黒の下衣。腰に刺さったシルバーの剣と、腕で輝く金色の鷹の腕章が、彼の抜きんでた才能を物語っていた。

公爵嫡男という身分でありながら、アイヴァンは一年ほど前から、王宮騎士団の騎士団長も担っている。

ユーリス王国の王宮騎士団は世界一の豪腕揃いで、身分など関係ない実力主義だ。そのため剣一つで成り上がった実力者が権力を握ることが多く、アイヴァンのような上流階級出身の騎士が団長に選ばれることは稀だった。






「アイヴァン様、お待ちください……!」

クレアはドレスのスカートを軽く持ち上げると、慌てて小走りでアイヴァンを追いかけた。

この九年でクレアの身長も随分伸びたが、男性の中でも高身長のアイヴァンとは、いまだ見上げるような格好で話をしている。

幼い頃は短かった髪も、今では腰のあたりまで伸びた。バサバサとした髪質も年月とともに潤い、見違えるようなサラサラのストレートに変わった。赤かった髪色も徐々に色素が薄れ、今では誰が見ても納得のプラチナブロンドだ。
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